Sony PXW-FS7 検証レポート
<ビデオSALON 2014年12月号に寄稿>
この秋、ソニーから新しい4Kカメラ「PXW-FS7」が発売された。4K Super35mm CMOSセンサー(総画素数約1160万画素、有効画素数約880万画素)を搭載。カメラ本体でのXAVC 4K/60P記録にも対応し、S-Log3ガンマによる基準ISO感度2000、ダイナミックレンジ14ストップの性能を実現。人間工学に基づいたデザインを採用したというボディ形状や、多才な機能が直感的に使えるように配置されたグリップリモコンなど、機動性や操作性を高めるための創意工夫もいたるところに施されている。これでカメラ本体の市場価格が100万円を切るとは驚き。いま注目の最新鋭カメラを試用する機会を得たのでここでそのレポート報告をしよう。
<収録フォーマット>
収録フォーマットは、ソニーが4K用に開発しF55などに搭載したXAVCを採用し、“XAVC-I”(Intra Frame方式:1フレーム毎での圧縮処理)と“XAVC-L”(Long GOP方式:圧縮率を高めた複数フレーム間での圧縮処理)の2つの方式と、HD収録のみだが、従来のXDCAMなどで使われてきた“MPEG HD422”の3つから選択できる。また、拡張ユニット「XDCA-FS7」(2015年春発売予定)を用いればProRes収録(HDのみ)にも対応する。更に「XDCA-FS7」に加え、RAW収録用ユニット「HXR-IFR5とAXS-R5」を組み合わせることによって4K/2K RAW収録も可能になるとのこと。現状、4Kの解像度はQFHDサイズ(3840x2160)までだが、来年春のファームアップによりDCI 4Kサイズ(4096x2160)記録にも対応する予定。1台のカメラで幾つもの収録フォーマットが選択でき、制作予算やワークフローに合わた撮影を行うことが可能だ。
<記録フレームレート>
記録フレームレートは4Kで60Pまで対応。スロー&クイックモーション(S&Q)機能で1fpsから60fpsまで1フレ単位での可変フレームレート設定ができ、アンダークランク(コマ落とし)撮影や最大2.5倍のハイスピード撮影などが可能。HD記録の場合だと、1~60fpsの可変フレームに加え、72、75、80…と飛び飛びだが最大180fpsまでのフレームレート選択ができ*最大7.5倍のスローモーション映像が連続収録できる。また、RAW収録の場合、4K時は60Pまでだが、2Kでは120/240fpsでの連続収録が可能になる。
可変フレームレート撮影をする時に使うS&Qボタンだが、現状は撮影モードのON/OFF切り替えしかできず、フレームレート数の設定変更はメニュー項目内でしか行えない。FS700の様にS&Qボタンだけで操作設定ができるともっと便利だろう。
*XAVC-Iの場合のみ。XAVC-L時は120fpsまで。
<エルゴノミックデザインのカメラ>
FS7の外見は、箱型で角ばったF55やFS700などの形状とは違い、ボディは肩に担いだり手持ちで抱えた時に体にしっくりと馴染む丸みを帯びた形をしている。また、付属のグリップアームやグリップリモコンの長さ・角度の微妙な調整が行え、肩のせや手持ちなどどんなスタイルの撮影でも自分に合う楽な体勢でカメラを構えることができる。実際に肩に担いでみたところ、最初は肩にのせるには若干ボディが短い気がしたが、グリップアームの長さやビューファインダーの位置を調節しアイピースで顔(目)をしっかり固定することで、ショルダータイプのENGカメラを構えた時のような安定した体勢を長時間とることができた。
<ビューファインダー>
FS100やFS700の液晶モニターは肩のせ撮影やハイアングル撮影時などで角度調整に限界があると一部のユーザーから不評だったが、FS7の方はクランプとアームの組み合わせにより角度調整が自在で、肩のせ、手持ち、ハイアングル、ローアングルと様々な状況でもモニター画面を見やすい位置に合わすのが容易になった。角度調節だけでなく、ファインダー画面のコントラスト調整やピーキングやゼブラ表示のON/OFF、ミラー(画面の反転)機能など、撮影中の露出やフォーカスの確認などがより素早く簡単にできるようにもなっている。画面のサイズはFS700などと同じ3.5インチ型だが、解像度は約156万画素と上がり格段に見やすくなっている(FS700は約92万画素)。
<グリップリモコン>
特に注目すべきはグリップリモコンで、RECボタンやズームレバーだけでなく、3つのアサインボタン、アサイナブルダイヤル(絞りダイヤル)、マルチセレクター(カメラ本体のSEL/SETダイアルと同じでメニュー項目や設定値を選択/確定できる)などが装備されていて、頻繁に使う機能を各ボタンに登録しておけば、手持ち撮影の場合でもビューファインダーから殆んど目を離さずに撮影をすることができる。慣れてくると手持ち撮影時だけでなく、カメラを三脚に載せた場合でもグリップアームとグリップリモコンをパン棒代わりにしてオペレートする方が便利に感じるかもしれない。
<ピント拡大機能>
4K撮影はピント合わせがとてもシビアで、カメラの小さな液晶画面でフォーカス確認をするのは至難の業だ。映画やドラマの現場なら必ずフォーカス担当の助手をつけるところだが、FS7を使う場合はどうするべきか。FS700など他のカメラにも搭載されているピント拡大機能(4倍/8倍)がこのカメラにもあるのだが、グリップリモコンのアサインボタンには初期設定でこの機能が登録されている。撮影中でも拡大できるので、被写体の微妙な動きに合わせたピント送りが可能だ。だだ、現状は画面中心部にしか拡大されない。被写体を常に画面中央にフレーミングできるとは限らないので、拡大エリアをグリップのマルチセレクターで位置変更できるとさらに嬉しい(次のファームアップに期待)。それから、この拡大機能、ファインダー上では判断しづらい高感度ISO設定時のノイズの出具合などをチェックするのにも使える。
<NDフィルター>
NDフィルターはCLEAR、1/4(ND.6)、1/16(ND1.2)、1/64(ND1.8)の4ポジション回転式を搭載。ショルダータイプのENGカメラと同じ位置(本体前面右上)にあり、肩のせ姿勢の時などは操作が楽。
<バッテリー>
バッテリーはXDCAMハンディカム用リチウムイオンタイプ、BP-Uシリーズを使用する。収録フォーマットによって違いがあるが、BP-U60ひとつで約3~3.5時間(スタンバイ状態で)は保つ。拡張ユニット「XDCA-FS7」を用いれば、Vマウントリチウムイオンタイプの使用も可能になる。
<映像出力>
3G/HD-SDIが2系統。HDMIが1系統。拡張ユニット「XDCA-FS7」にはRAW映像出力が搭載。
<収録メディア>
ビットレートが最大600MbpsにもなるFS7の本体収録用メディアには専用のXQDメモリーカードが必要になる。収録可能時間は64GBカードの場合、XAVC-I 4K/60Pモードで約10分、HD/60Pモードで約30分。XAVC-Lフォーマットならその4倍以上の収録時間が可能になる。見かけはSDカードとあまり変わらないが、値段は64GBで市場価格4~5万円とかなり高価だ。メディアを何枚用意してどのように現場で使い回しをするか悩みどころだろうか。
メモリーカードスロットはA/Bと2系統あり、リレー記録や同時記録が可能*。同時記録に設定している場合、カメラ本体横のRECボタンを押すとメモリーカードAに、ハンドル上のRECボタンを押すとメモリーカードBに記録するといった2つのカードを使い分けることもできる。拡張ユニットを使ってRAW収録する場合、本体側でXAVCやMPEG-2 HD422フォーマットでのバックアップ収録が可能。
*ただし、4K収録、XAVC-Iでの1080/60P収録、S&Qモードなどの時は同時記録が行えない
<撮影モード>
FS7には“Customモード”と“Cine EIモード”の2つの撮影モードがあってどちらかを選ぶ。“Custom”の方は、撮影現場で積極的な画作りをしたい場合に選ぶモードで、Paintメニューにある色味やディテールなど各項目を調整して現場で自由な映像表現が可能。Paintメニューは、HDVCAMやNXCAMシリーズなどのピクチャープロファイルに相当する機能。選ぶのはガンマ設定くらいにして、あとはプリセット任せで撮影することも勿論可能。
“Cine EI*”の方は、グレーディング作業を前提としたRAWやLog収録をする場合、現場でカメラのパラメーター調整を使った画作りを必要としない時に選ぶモード。絞り、シャッター、など最小限の機能以外、ガンマはS-Log3、感度はISO2000、ホワイトバランスは3200K/4300K/5500Kのみなど、ほとんどの設定値が固定されてフィルムカメラで撮るのと近い状態になる。
*Exposure Index、露光指数
<S-Log3ガンマ>
ガンマ設定はスタンダード(STD)が6種類、ハイパーガンマ(HG)が6種類、LogはS-Log3が1種類*と計13種類から選べる。S-Log3は、FS700Rでも使われたダイナミックレンジ1300%のS-Log2よりも暗部の階調表現を豊かにし基準となる18%グレーを明るく設定したため、ダイナミックレンジが1.5stop分も拡張され、被写体の暗部の黒つぶれやハイライトの白飛びがさらに起きにくくなっている。
*来年春のファームアップでS-Log2が追加される予定
<STD Rec.709>
<S-Log3>
<S-Log3 グレーディング済み>
<拡張性のあるEマウント>
レンズマウントはXDCAMでは初めてとなるFS700などと同じEマウントを採用。18mmという短いフランジバックの特長を活かしアダプターを用いてマウント変換することで、ソニーのAマウントレンズから他社の別マウントの物まで様々なレンズを使うことができる。今回のテストではソニーのEマウントレンズや、メタボーンズEF-Eマウント変換を用いてキャノンのEFレンズなどを使ったが、高級なPLマウントのシネレンズをレンタルしてきたり、個人所有のスチル系レンズを使ったりと撮影用途や制作予算に合わせたレンズの使い分けができて便利だ。ちなみに、筆者所有の小さなEマウントPZ16-50mmを付けたところ、絞り操作、オートフォーカス、手ブレ補正、電動ズームとどれもきちんと作動してくれた。12月には、それよりもっと優秀なEマウント系35mmフルサイズ対応電動ズーム(28-135mm F4)が発売される予定だ。
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肩のせ、手持ち撮影がやりやすいデザイン、見やすいビューファインダー、機能満載で持ちやすいグリップリモコン、近く発売予定のEマウント電動ズームなど、FS7にはワンマンオペレーションのための様々な工夫が施されているのがよく分かる。現場での機動性が必要とされるドキュメンタリーやブライダル撮影などでも大いに活躍してくれそうだ。
SONY PXW-FS7: Rec.709 vs. S-Log3 テスト
CAMERA: Sony PXW-FS7 @XAVC-Intra 3840x2160 / 30P LENS: Canon EF24-70mm F2.8L II USM MODEL: Tami Maeda 前田多美 LOCATION: Shinjuku, Tokyo, Japan EDIT: Premiere Pro CC, Final Cut Pro X COLOR GRADE: DaVinci Resolve 11
Sony PXW-FS7: Rolling Shutter & Slow Motion テスト
CAMERA: Sony PXW-FS7 @XAVC-Intra 4K&HD / 30P LENS: Vario-Tessar T* E 16-70mm F4 ZA OSS MODEL: Tami Maeda 前田多美 LOCATION: Shinjuku, Tokyo, Japan EDIT: Premiere Pro CC, Final Cut Pro X COLOR GRADE: Final Cut Pro X