Nikon D810 撮影レポート
<ビデオSALON 2015年2月号に寄稿>
有効画素数3635画素(総画素数3709万画素)、最新の画像処理エンジンEXPEED 4、ローパスフィルターレスの35mmフルサイズCMOSセンサーを搭載。ローパスフィルターを搭載することなくモアレやジャギーを大幅に減らすことに成功し、なおかつ、動画用の補間処理や輪郭強調処理の改良で、よりくっきりと鮮やかな映像を得ることが可能になった。ニコン自ら“史上最高画質”と謳っている本機であるが、はたして動画性能においてはどうなのであろうか。今回、短編映画の撮影で本機を試す機会があったので実際の使用体験をレポートにまとめてみた。
<1080/60p記録>
最近のビデオカメラの中には1080/60pはもとより、4K/60p記録にも対応した機種が出ているご時世だが、D800も含めデジタル一眼系カメラは最近までフレームレートを60pにする場合、解像度が1280x720に落ちてしまうのが当たり前であって残念な点であった。しかし、D810ではフルHD(1920x1080)でも60pや50p撮影が可能になった。今回の作品でもオープニングシーンや回想のショットなどを、2.5倍のハイスピード映像(@24pベース)を画質の劣化をさせることなく、印象的に撮ることができた。
<2つの動画フォーマット>
D810は静止画撮影の場合と同様に、動画撮影でもFXベースとDXベースの2つの撮像範囲を選ぶことができる。ただし、アスペクト比は16:9となり上下が少しクロップされ、FXベースの場合においては静止画用サイズよりさらに1割ほど狭くなる。
FXベース動画フォーマット:約32.8x18.4mm(クロップファクター1.1X)
DXベース動画フォーマット:約23.4x13.2mm(クロップファクター1.5X)
FXベースの動画フォーマットでは大きなセンサーサイズによるボケ味を活かした表現が、DXベースでは焦点距離が短くなり被写体をより大きく撮影することが可能になる。今回の作品はほとんどのシーンをFXモードで撮影し、FXモードとDXモードの厳密な画質の比較は行っていないが、DXモードで撮ったカットでも画質の劣化はほとんど感じなかった。1本のレンズで2つの焦点距離を使い分けができる便利なクロップ機能は大いに活用するべきだろう。
<本体収録>
カードスロットはSDカード(SD、SDHC、SDXC)用とCFカード用の2系統あるが、動画撮影での2種類のカードを使った同時収録はできない。本体収録時のファイル形式はMOV、圧縮方式はH.264/MPEG-4 AVC(8ビット4:2:0)で、最大ビットレートは42Mbps(@1080/60p・50p)、24Mbps (@1080/30p・24p)。高画質と標準画質の選択が可能(別表参照のこと)。
<HDMI出力>
今回の撮影はカメラ本体でのカード収録のみで、HDMIからの出力信号は外部モニター用に使用しただけだが、HDMI端子からは1080/60p、非圧縮8ビット4:2:2信号の出力が可能。外部収録を行う場合でもフルHD画質での本体同時収録も行うことが可能になった。これはD800からの大きな改良点の一つだ。細かいことだが、HDMIケーブルはちょっとした接触でもモニターへの映像がすぐ途切れてしまい現場ストレスの要因によくなってしまうのだが、付属のHDMIケーブルクリップはそれを未然に防いでくれて大いに役立った。
<ISO感度>
動画撮影時の感度はISO64から12800まで(拡張機能で51200相当まで増感が可能)の設定ができ、最低感度がD800でのISO100より2/3絞り分下がった。これは、標準感度ISO500のカメラだとすると3絞り分のND(ND0.9)を搭載しているのに等しい。今回、さすがに日中の屋外シーンではNDフィルターが必要になったが、ビデオカメラのように内蔵NDがないDSLRにはこの低感度設定はかなり役に立つ。
高感度によるノイズの発生だが、今回は夜のシーン撮影がなかったので、あまり感度を上げる必要がなかったが、夕景シーンの撮影で日没後のマジックアワーでは20分弱の間に徐々に感度設定を上げて撮影した。光が回りきらない暗部でのノイズが若干気になりはじめたISO2000(@フラットモード)まで撮影したが、背景の空や天空からの光を受けた人物の顔など最後までほとんど問題なかった。ノイズの許容範囲は作品の内容や撮影状況によって変わるので各自の判断によるところだが、ドキュメンタリーのような作品なら夜のシーンをISO8000くらいで撮影してもほとんど問題ない範疇だろう。
今回の撮影では使わなかったが、露出モードM(マニュアル)の場合に、シャッター速度と絞り値は変えず、ISO感度をカメラが自動的に変更して適正露出をキープする「感度自動制御」という機能が加わった。1カットの中で暗い室内から明るい屋外へ移動するなど、露出が大きく変化する場面で役に立ちそうだ。感度が高くなり(ノイズが発生し)過ぎないように上限感度を設定することも可能だ。
<ローリングシャッター>
これまでデジタル一眼カメラでの動画撮影では手持ちの時など、映像がグニャグニャ歪むコンニャク現象や高速で走る車が斜めに映る動体歪み、いわゆるローリングシャッター現象がよく見られ大きな懸念事項の一つとなっていた。今回、手持ち撮影や車載カメラ撮影なども行ったが歪みはほとんど気にならず、デジタル一眼系としてはかなり改善されているように感じた。手ブレ補正(VR)機能付きレンズを使えば、手振れから来る歪みに対してはさらに有効に働く。
<液晶モニター>
液晶モニターは3.2型、約122.9万ドット(RGBW配列)で、サイズはD800(3.2型、92万ドット(RGB))と同じだが、RGBの配列にW(白)が加わってより明るく見やすくなっている。残念なのはD810の液晶モニターが固定式という点で、視野角が上下左右170°と斜めからでも画面がはっきり見えるので、スチル撮影においてはローアングルやハイアングルでも問題ないという判断かもしれないが、少なくとも動画撮影においては可動式モニターの方が絶対に使いやすい。ちなみに、D810の後に発売されたD750ではチルト式の液晶モニターが搭載された。
<“i”ボタンの動画の設定変更>
液晶画面右横の“i”(アイ)ボタンには動画撮影で必要ないくつかの設定変更が素早くできるよう登録されている。撮像範囲(FX/DX)、画像サイズ/フレームレイト、動画の画質(高画質/標準)、マイク感度などの録音設定、動画記録先(SDスロット/CFスロット)、モニターの明るさ、ハイライト表示、ヘッドホン音量などの設定変更や調整を、いちいちメニュー画面に入っていかなくてもボタンひと押しですぐ確認できるのは有り難い。その下の“info”ボタンを押すとガイドフレームや水準器、ヒストグラムなどの画面表示に切り替わる。
<水準器表示>
DSLRカメラで撮影する場合、何かと手持ちが多く、またそのためのリグを装着するブリッジプレートなどがカメラ本体の下につけられ、三脚側の水準器でレベルを合わせたつもりでもカメラの水平レベルがズレていることがよくある。そんな時、一目で分かりやすい水準器表示はとても重宝する。これはもっとビデオカメラにも搭載して欲しい機能だ。
<撮影アシスト機能>
その他にも、ヒストグラムやゼブラ表示など露出確認機能や、最大約23倍の画面拡大機能、動画撮影中にボタン操作で絞り設定を無段階で調整できる「パワー絞り」機能。タイムラプス撮影時のフレーム間での露出の微妙なバラつきを軽減する「露出平滑化」機能など動画撮影をアシストする様々な機能が搭載されている。
<フラットモード>
ピクチャーコントロールに新しく加わった設定。特に暗部から中間部にかけての情報を増やし「ニュートラル」よりもトーンカーブが直線に近く、白飛びや黒つぶれ、色飽和が起きにくい文字通りフラットな映像が特長。RAW現像の恩恵にはあずかれない動画撮影で、グレーディング作業を前提とするなら「フラット」モードでの撮影が適している。でも、ルックの違いはLogガンマほど極端ではないので、そのままの状態で使うことも十分可能。今回の作品は全てこのモードで撮影したが、グレーディング処理の方法もシーンよって使い分けた。
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デジタル一眼ムービーの先駆けでありながら、動画撮影機能においてはキャノンやパナソニックなどにしばらく水をあけられてきた感のあるニコンだが、2012年春に登場したD4やD800あたりから本格的な巻き返しを見せ始め、D800やD800Eに更なる改良を加え2年後に発売されたこのD810で、DSLRの確実に他社に追いつき、さらには追い抜いてしまったとさえ言える。“デジタル一眼ムービー史上最高画質”のカメラといっても決して過言ではないだろう。
作品紹介『DEPARTURE』
脚本・監督:園田新 出演:ウダタカキ、笠原千尋
《STORY》路上で花を手向けていた男が自殺しようとしていた女子高生を伴い旅に出る。
詳しくはINFINITE FOCUS(www.focus-infinity.com/infinite-focus)