動画ユーザーのための一眼レンズ選び
<ビデオSALON 2015年8月号別冊付録に寄稿>
最近のデジタル一眼用交換レンズ情勢は、マイクロフォーサーズ(MFT)系やソニーEマウント系のレンズもかなり種類が充実してきて、益々盛り上がりを見せてきている。ただ、それらの交換レンズの多くは主に写真撮影を目的としていて、フォーカスリングはAF機能や小型軽量化を優先させ、スカスカで無制限に回り、フォーカス基線もないような作りとなっていたりする。いくらAF機能が優れてきたとは言え、動画撮影でのフォーカス操作などはまだまだ手動に頼らざるを得ないのが実状で、マニュアル操作性の良し悪しはレンズ選びの大事な要素の一つだと言えるだろう。
それにひと口に動画撮影と言っても、ドラマや映画の撮影からブライダル、スポーツ、舞台、動物、風景などドキュメンタリーや記録映像の撮影までそのジャンルは幅広い。役者の芝居を撮るドラマや映画撮影の場合、撮影助手もつけられるような現場なら、大きめの回転角でスムーズに動くフォーカスリングやズームリング、クリックレスで無段階調節が可能な絞り環など完全マニュアル仕様のレンズ(シネレンズ)を使うのがやはり理想的だろう。
一方、ワンマンオペレーションで、予測のつかない被写体の動きに素早く対応しなければならないドキュメンタリー系の撮影であれば、いちいちレンズ交換をしている暇もないだろうから、ENGタイプ系の高倍率ズームレンズ(サーボ機能付き)の方が断然便利ということになる。
また、機材面から言うと、デジタル一眼ムービーの場合、カメラ自体の重量が軽いため、手持ちでの撮影はもちろんのこと、三脚に固定した撮影の場合でも、少しの振動でさえブレが映像に出てしまうので手ブレ補正機能が使えるととても助かる。AF機能も最新のカメラのはかなり優秀なので、マニュアル操作に加えてこれらの機能にも対応するレンズだと更に便利だろう。
ということで、動画撮影向きレンズの条件をまとめると…
● フォーカス・絞り・ズームのマニュアル操作が可能
● 適度に広い回転角でスムーズに回るフォーカス、ズームリング
● クリックレスでTストップ表示の絞り環
● ピッチ0.8で幅の広いギアリング付き
● ピント送り時にブリージングが発生しない
● セットレンズでの統一性
◯ 色味・コントラスト・シャープネスなど
◯ フィルター径などのハウジングサイズ
できれば、
● サーボズーム・AF・手ブレ補正機能にも対応
上記全ての条件を満たすレンズなどなかなかお目に掛かれない。ソニーのFE PZ 28-135mm F4ズームなどは、実際に使ってみて少し不満な点もあったが、フォーカス、ズーム、絞りとどれもマニュアル、オートの両操作に対応していて、結構いい線まできていると思う。
Rokinonのシネレンズは完全マニュアル仕様で、光学の面ではツァイスSLRレンズにも引けを取らないほどの高品質にもかかわらず、値段はツァイスの1/4以下とコストパフォーマンスの高さは低予算フィルムメーカーではなくともかなり魅力だろう。
MFT用レンズにはコシナのNoktonという非常に優秀なレンズシリーズがある。他のMFT系レンズと同様コンパクトな作りではあるが、こちらも完全マニュアル仕様でフォーカス操作もやりやすく、動画の撮影で使う機会は多い。
気になるレンズが、Veydra(ヴェイドラ)というMFT用のシネプライムレンズで、まだ日本では殆んど知られていないが、海外ではすでに16/25/35/50mm(全てT2.2)の4本が発売されており、今年中に12mmと85mmも追加される予定。ハウジングは大きめでゆとりがあるサイズで統一されている。25/35/50mmの3本はイメージサークル径が31㎜以上あり、スーパー35センサーサイズもカバーする。
どんなレンズが動画向きかというのは、撮影する内容(ジャンルや被写体)、カメラ機種や撮影方法(三脚・手持ち・スタビライザー)、撮影条件(予算や時間、スタッフ体制など)を考慮して各自が判断すべきだろう。ここではレンズの明るさや画質など光学的特性はもとより、フォーカス送りやズーミングなど動画撮影における操作性にも注目して、いくつかのレンズを紹介する。今後の撮影でどんなレンズが必要か判断するための参考になればと思う。