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マットボックス・フォローフォーカス入門

<ビデオサロン2010年12月号別冊付録に寄稿①>

<まえがき>

最近、自分の周りでも動画機能付きデジタル一眼カメラを買って自主映画などを撮る人が増えてきている。高画質、高感度、そして、35㎜シネカメラと同じくらいの被写界深度が得られるカメラが、かなり安い値段で入手できてしまうからだ。しかしながら、いざ撮影してはみたものの、自分がイメージしていた映画のような映像がそう簡単には撮れないことに気づく人も多いのではないだろうか。それは別にその人の美的センスの有る無しとは関係なく、カメラだけ(頑張って三脚やモニターまで)は揃えたとしても、それではまだ不十分な状況にあるということを意味しているのではないか。

例えば、デジタル一眼を使って晴天の屋外で人物の動画撮影をするとしよう。ISO100(最低感度)、シャッター速度1/50~1/60(パラパラ感のない自然な動きに見せる)の設定では、絞りがf/16や22などとなってしまい、レンズによっては絞り切れず露出オーバーになってしまう可能性がある。多くのビデオカメラにはNDフィルター機能が内蔵されているが、今のところデジタル一眼にはそれがないので、ND系フィルターをレンズ前に付けて適当な絞り値にしてやる必要がある。ましてや、ボケ味を活かした印象的な映像を撮ろうとしたら、レンズの絞りをなるべく開放めにしないとならないわけで、そのためにも複数のNDフィルターを用意しておいて、状況に合わせてフィルターを組み合わせて使うことになる。

撮影で使用するレンズがズーム1本だけとか、同じようなフィルター口径のレンズが2、3本だけなら、そのサイズにあったNDフィルターをレンズ前に直接(または、ステップアップリングなどアダプターを使って)取付けて使えば、簡単で安上がりに済むだろう。しかし、フィルター口径サイズが大きく違うレンズを何本も使う場合などは、それぞれのサイズに合うフィルターやアダプターを何枚も用意し、それらを現場で駆使して撮影しなくてはならない。複数のフィルターを重ねて使ったり、ハーフNDのような角型フィルターも使おうものなら、現場での作業はかなり面倒なものになってしまうだろう。(ねじ込み式の丸形フィルターはよく外れなくなるし、冬は寒くて指先での細かな作業が困難になる。そんな時にもし雨や雪だったら…)

<マットボックス>

そんな時にあると非常に便利なのがマットボックスだ。4x4などのサイズの専用トレイにフィルターを入れ、それをフィルターステージに差し込んで使う。複数のレンズを使う場合でも、揃えるべきフィルターは1つのサイズに統一できる。直接レンズに触ることなくすぐにフィルターの取り外しができるので、現場の作業スピードも早くなる。また、回転式ステージがあれば、PLやNDハーフなどのフィルターも思い通りの角度でつけられる。各メーカーから機能、値段とも様々な種類のマットボックスが出ている。小型ビデオカメラやデジタル一眼カメラのために作られた小さくて軽いタイプをいくつかピックアップして表にまとめてみたので参考にして欲しい。

マットボックスの装着方法は2通り。1つはアダプターを使ってレンズ前に直接取付け(クリップオン)する方法で、もう1つはサポートロッドに固定する方法である。どちらの取付け方を選ぶかはその時の状況次第。スチル用ズームレンズの多くはズーミングすると前玉が大きく前にせり出してくるので、ホルダー内のフィルターに当たってしまうという問題が起こる。その場合はクリップオン方式を使うわけだが、中にはピン送りやズーミングすると前玉が回転するタイプのレンズもあるので、その場合はロッド方式の方がいいことになる。デジタル一眼の場合、シネカメラのPLマウントのようにレンズとカメラ本体を頑丈に固定している訳ではないので、マットボックスを直接レンズに付けることでガタつきがでたり、場合によってはマウント部分を破損してしまう恐れもあるので、出来るだけロッド方式で装着することをお勧めする。

マットボックスのもう1つの重要な役割は、太陽や照明などの光がレンズやフィルターに直接当たるによって起こるフレア(ハレーション)を防ぐことである。付属のフラッグやマスクなどがあれば、フレーム枠の外ギリギリから来る光線なども簡単に遮光することができる。また、カメラの後方から来る光がフィルターに当たらないように、インサートリングやラバードーナッツというものも各メーカーから出されている。

<フォローフォーカス>

マットボックスとNDフィルターのお蔭もあって、何とか開放気味の絞りが得られ、人物の背景のボケ具合も美しい状況が得られたとしよう。しかし、今度はその浅い被写界深度の中、人物の動きに合わせてフォーカスを送るという作業が待っている。シネレンズの場合、フォーカスを送り易くするため、レンズ自体の作りを大きくし、フォーカスリングの送り幅も大きく、回す時にはリングにある程度のテンション(ねばり)が掛かるように作られている。それに比べて、スチルレンズは比較的作りが小さく、当然フォーカスリングのサイズも小さい。AF機能付きのレンズなどは素早くピントが合うよう送りの幅がさらに狭くなっていたりする。実際に手動でスチルレンズのフォーカスを送ってみると、フォーカスリングにあまりテンションがなく、少しの力でも回って送り過ぎてしまったり、カメラ本体も小さく軽いので余計な力をかけるとカメラ全体が揺れてしまったりと、かなりデリケートな作業となる。

フォローフォーカスがあるとその辺の問題がかなり解消される。フォローフォーカスは、白いマーキングディスクが付いた回転ノブを回し、ギアを介してフォーカスリングを回すという構造になっている。シネレンズのフォーカスリングにはあらかじめ統一規格のピッチ(0.8㎜幅が主、レンズによって0.5㎜や0.6㎜もある)のギアが付いているが、スチルレンズにはそれが付いていないので、フォーカスリングの上にギアリングを巻き付けて使うということになる。

こちらも各メーカーから小型ビデオカメラ、デジタル一眼カメラ用にいくつか出されている。リストアップして表にしてみたので参考にして欲しい。単にギアを回すだけという単純な作りの物から、ギアの位置が変えられたり、ギアの回転を逆にできたり、違うピッチのギアと交換できたり、ノブの回転範囲を制御できたりとそれぞれの性能に違いがある。ギアリングも各メーカーから出ている。

マットボックスの場合、クリップオン式だけで使用するなら必要ないが、フォローフォーカスの場合、それを固定するサポートロッドとそれを取付けるベースプレート(ブリッジプレート)が必要になる、これも直径15㎜サイズのサポートロッドを使うデジタル一眼カメラ用のものを主に選んで表にしてまとめておいた。カメラ本体の下にバッテリーパックなどを取付けられるようプレートの高さを調節できるものがあったり、カメラの脱着が簡単にできるクイックリリース式のものがあったりと、各メーカーから色々なタイプが出ている。サポートロッドの直径や幅はどのメーカーも規格統一しているので、自分の使用するカメラやレンズ、撮影スタイル、好み、予算に合った機種を各メーカーから選んで組み合わせて使うことができる。

<おまけ>

最後に、これは撮影技術とは直接関係ないことかも知れないが、アクセサリの果たす重要な役割りをもう1つ。デジタル一眼は小さくて目立たず、街中で余り人目を引かずに動画撮影ができてしまうところもこの種のカメラを使う大きな利点の1つではあろう。だからといって、常にカメラにレンズだけが付いただけの状態で撮影するのはどうだろうか。役者やクライアントが現場に入って目にした撮影カメラが、レンズがむき出しの状態で付いていた場合と、マットボックスやフォローフォーカス、サポートロッドが一緒に付いていた場合とでは、その作品の質に対しての印象に違いはないだろうか。フィルターワークやフォーカス合わせは、工夫次第では特別な機材がなくても何とかなってしまうかもしれないが、役者のモチベーションを高めたり、クライアントからの安心感、信頼感を得るためにはマットボックスやフォローフォーカスは必須のアイテムで、これも一種の演出テクニックと言えるのではないだろうか。

マットボックスやフォローフォーカスまで揃える余裕がない、という人もいるかもしれない。確かにひと昔前まで、これらのアクセサリ機材はプロの撮影現場でしか使われず高価でレンタルして使うというのが一般的だった。しかし、最近は各メーカーから初心者、アマチュア向けの比較的安い機種も増えてきている。カメラの性能は日々進化していて、つい数年前に出たビデオカメラももう時代遅れとなる可能性があるというご時世。今年の冬にはパナソニックから4/3インチのセンサーサイズを持つレンズ交換式のビデオカメラが発売される予定で、スチルレンズの活躍する機会は今後益々増えてくるのではないか。レンズ同様、自分のお気に入りのマットボックスやフォローフォーカスを揃えておくのもいいのではないだろうか。

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