Blackmagic Cinema Camera テスト撮影
<デジタルシネマカメラ完全攻略に寄稿①>
検証レポートのためブラックマジックシネマカメラ(BMCC)の実機(EFタイプ)を試す機会を得たので、モデルとテストチャートを使っての簡単なテスト撮影を行ってみた。ここでは、テスト撮影の結果とともに、カメラの基本的なスペックや機能を、実際使ってみてのカメラの操作性や使用感など個人的な感想を交えてレポートしよう。
<基本スペック>
◯センサー解像度: 2432 x 1366
◯撮影解像度: 2.5K RAW:2432 x 1366
ProRes 422(HQ)、および DNxHD:1920 x 1080
◯フレームレート: 23.98p / 24p / 25p / 29.97p / 30p
◯センサーサイズ: 15.81 x 8.88 mm
◯レンズマウント: EFタイプ:EF、ZEマウント(電子アイリス制御)
MFTタイプ:マイクロフォーサーズ・マウント(マニュアル方式)
◯収録方法: 2.5インチ SSD(リムーバブル)
◯収録時間: 256GB SSD使用時:RAW 2.5Kで約30分、ProRes/DNxHDで2時間以上
◯収録フォーマット: Mac OS拡張フォーマット
◯録画フォーマット: RAW 2.5K CinemaDNGファイル(非圧縮)
Apple ProRes、および Avid DNxHD(10bit YUV圧縮)
◯バッテリー持続時間:約90分(スタンバイ状態で)
◯バッテリー充電時間:約2時間(使用していない状態で)
◯外部電源: 外部バッテリー用12-30V DCポート、または 12V ACアダプター
◯重量: EFタイプ:1.7 kg、MFTタイプ:1.5 kg
<その他の基本設定>
◯ISO感度: 200 / 400 / 800 / 1600(標準感度:800)
◯ホワイトバランス: 3200 / 4500 / 5000 / 5600 / 6500 / 7500
◯シャッター開角度: 45 / 90 / 108 / 144 / 172.8 / 180 / 216 / 270 / 324 / 360
<操作性・機能性>
先ず、触ってみての感触だが、斬新なデザインのアルミ合金削り出しのボディは意外にズッシリと重く高級感がある。これはバッテリーが内蔵されていることも理由の一つだろう。この内蔵バッテリー(取り外し不可)だが、スタンバイ状態で90分程しか保たないので、もし頻繁にカメラを回す状況ならより短くなりそうだ(寒い環境下では更に)。室内ならAC電源ケーブルを繋いで使用できるが、屋外撮影の場合、内蔵バッテリーはあくまで緊急用のバックアップ程度に考え、外付けバッテリーを用意した方が良さそうだ。
NDフィルターは内蔵されていないので、屋外の撮影では外付けタイプのNDフィルターが必要だろう。重さもあるので、手持ち撮影の場合はハンドグリップなど何らかのリグが必要そうだ。BM純正のハンドル以外にも、トップハンドルやケージなどすでに様々なメーカーから専用リグが出ている。ちなみに、カメラを左右に素早くパンしたところ、画像が若干斜めに歪むローリングシャッター現象もやや見てとれたので、手持ちの時は注意が必要だ。
収録メディアはSSD。収録可能時間はRAW収録(24p)だと256GBで約30分、ProResだとその約5倍。ただし、SSDにどのくらい残容量があるかの表示は出ない。また、カメラ側からメディアのフォーマットやファイルデータの削除はできない。撮影中、気づくとメディアの残量がゼロになっていた時、すぐその場で要らないNGテイクを消してもうワンカット撮るということはできないわけだ。
操作ボタンは、カメラ背面のLCDモニター回りにある幾つかと、前面に付いているRECボタンのみで、他のビデオカメラなどと比べるとかなりシンプル。あとはモニター画面上でタッチパネル操作を行い、設定などを変えるしくみだ。MENUボタンで液晶画面をメニュー操作画面に切替え、ISO感度などの撮影設定、オーディオ設定、RECフォーマットなどの録画設定などを決める。
フォーカス機能としては、画面右横のFOCUSボタンを押すとピーキング表示がオンになるのと、画面を指で2回たたくと映像が拡大表示される機能があるので、組み合わせて使えばより正確にフォーカスを合わせられる。ただし、AF機能は使えない。
画面には録画モードやフレームレート、TC、シャッター開角度、感度、色温度、バッテリー残量などの情報が表示されるが、レンズのF値は表示されない。EFタイプの場合、モニター下の右ボタン(▶)と左ボタン(◀)で絞りを⅓ストップずつ変えられるので、特定の絞り値が欲しい時は、左右のボタンを駆使して、まず一旦絞りを開放にしてから、絞り羽根が動くかすかな音を聞きながら⅓段ずつ絞ってF値を合わせるという、ちょっとした職人技が必要になる。EFタイプは、他にもオートアイリス機能が付いていて、画面左横のIRISボタンを押すと、フレーム内のハイライト部分がクリッピングしないようにアイリスを自動で設定してくれる。MFTタイプは絞りリング付きレンズでのマニュアル操作が前提なので、EFタイプのような絞り操作機能はないが、ゼブラ表示機能があるのでそれを使って露出を決めることはできる。
大きくて見やすい5インチのLCDモニター(解像度800x480)ではあるが、晴れた屋外だと反射で画面は結構見づらくなる。また、バリアングルではないのでローアングルやハイアングル撮影の時には画面を覗きづらくなるので、EVFファインダーなど何らかのサブモニターが欲しくなるところだ。映像出力は抜けやすいHDMI端子ではなくSDI端子*なのはありがたい。後述するが、Thunderbolt経由での波形モニタリングも可能だ。*10bit 4:2:2出力
<録画設定>
メニュー画面の録画設定にあるRECフォーマットには、RAW 2.5K、ProRes、DNxHDと3つの選択枠があり、さらに、RroResとDNxHD*では、FilmとVideoの2つのダイナミックレンジ設定(RAW 2.5KはFilmモードのみ)が選べる。ダイナミックレンジをFilmモードにすると映像がローコントラストでとてもフラットな状態になる。これはガンマの設定が"Log"(ソニーのS-LogやキャノンのCanon Logと同じような設定)になるためで、暗部からハイライトまでの階調情報をできるだけ取込み、ポスプロ時、グレーディング作業などをしやすい状態で映像を記録できる。一方、Videoモードの方は標準的ビデオガンマ設定のようだが、このカメラにはコントラストや色相、シャープネスなど、デジタル一眼やビデオカメラなら普通ありそうなパラメーター設定がついてない。基本的に、このカメラでは露出調整など最小限の設定にとどめ、さらに調整が必要ならポスプロで行うというのが基本的な考え方のようだ。
*Avid対応のフォーマット。テスト時は未対応
<ダイナミックレンジ>
“13ストップのダイナミックレンジ”というのがこのカメラの大きな特長の一つだが、そもそも、ダイナミックレンジ(露出許容範囲の階調)が13ストップある撮影というのはどういう感じなのか、実際にテストしてみた。ただ、RAW 2.5Kでの収録については別枠で詳しくレポートするので、ここではProResモードでのLog収録の場合を検証してみる。(モデル:吉田咲菜)
テスト環境:ISO感度800、適正露出 F5.6
(数字はそれぞれ◯の部分の反射光量を示したF値)
① RECフォーマット:ProRes / ダイナミックレンジ:Videoの場合
標準ビデオ(Rec709)と同じガンマ設定。白い服のハイライト部分はIRE109%でクリップオーバーしていて、顔の明るい部分も白飛びして、暗いバックもほぼ0%になって黒く潰れている。ダイナミックレンジは8ストップ。
② RECフォーマット:ProRes / ダイナミックレンジ:Filmの場合
①にくらべてかなりコントラストが低く発色も弱いフラットな映像。その代わり、白い服や顔のハイも100%以内に収まり白飛びの部分はなくなり、写真では判りにくいが黒バックもわずかにディテールが見られる。グレーディング作業を前提とした収録設定。
②の波形:ハイライトも暗部もまだ約1ストップ分ずつは余裕がありそうで、ProResのFilmモードでもダイナミックレンジは12ストップ以上はあると言える。
ちなみに、ProResのFilmモードで撮影する場合、モニタリングする映像状態(SDI出力を含む)をVideo設定にすることができるので、Log収録している映像のコントラストや色味を標準ビデオガンマ設定の状態で見ることができる。必要なら、その標準ビデオ状態の映像をSDI出力で外部収録しておき、Log収録素材をグレーディングするのを待たずして、標準ビデオモード状態の素材を編集・鑑賞したりすることができるわけだ。
<UltraScope>
普通、現場で上のような露出の確認を行うには、波形表示機能付きモニターなどが必要になるところだが、このカメラには"UltraScope"という波形モニタリング用ソフトが付属品として付いてくる。Thunderbolt経由で対応するMacBook Proなどへ繋げば、波形モニターやベクトルスコープなど6つのスコープが表示可能となる便利なツールだ。
パレード、波形、ベクトルスコープ、ヒストグラム、オーディオメーター、ピクチャーの各表示
グレーディングソフトDaVinci Resolveも付属されていて、カメラとそれに対応するMacさえあれば、現場でのモニタリングからRAW現像を含むグレーディング作業まで映像の管理はひと通りできてしまうわけだ。
テストの時は最新のMacBook Proを用意したのだが、2画面しかスコープ表示されなかったが、切替えで6つ全ての画面を確認することはできた。
<マウントとレンズ>
BMCCのマウントはEF系とMFT系の2タイプがあるが、どちらを選べばいいか悩みどころかもしれない。EFタイプの方は、EFレンズ(ZEタイプも)が電子制御されるので前述したように絞りをカメラ側からコントロールできる。それに、IS機能があるEFレンズであれば手ブレ補正機能も使えるので便利だ。すでにEFレンズを何本か所有している場合なら、こちらを選ぶのがいいだろう。ただ、センサーサイズが15.8x8.88㎜と小さくて焦点距離が望遠側にシフトしてしまう(クロップファクター約2.3倍)ので、広角側のレンズをどうするかという課題が残る。例えば、35mmフルサイズではかなり広角な焦点距離20mmのレンズでもBMCCに着けると約46mm相当の標準レンズになってしまう。フルサイズ20mm相当のワイドな画角で撮りたい場合は約9mmの超広角レンズが必要になってしまう。
一方のMFTタイプの方はパッシブ方式、要するに、電子接点のない普通のマウントなので、絞り制御もできないし手ブレ補正も当然効かない。そんなハンディがあるにもかかわらず販売価格はEFタイプと同じだという。MFTタイプの問題はまだあって、それは使えるレンズが限られるということ。マイクロフォーサーズ系レンズは殆どが絞りリングのないタイプになるので、使えるのはノクトンなどの一部のレンズに限られてしまう。他のMFT系カメラと同じように、マウントアダプターを介してEF系レンズを着けたり*1、ニコン、ツァイスのマニュアル系レンズを使うという方法もあるが、値段もそう安くはないし、やはり広角側をどうするかという問題が残る。10mmくらいの超広角(魚眼ではない)レンズはそうなかなか無い*2。*1: Redrockmicro LiveLens MFT Active Lens Mountなどがある。*2: Tokina AT-X116 PRO DX2などがあるが絞りリングなし。
そんな状況の中、最近、注目されているのがCマウント系レンズだ。このレンズは昔、Bolexなどの16mmムービーカメラ用に使われていたもので、今でも工業用・医療用カメラなどで使われている現役のレンズだ。小さくて軽く、5.5mmや12.5mmなどの広角で、しかも開放値がF1.4や1.8といった明るいレンズが沢山あり、今でも中古品がネット上など比較的安価で売り買いされている。これまでにもMFT系カメラにCマウントレンズを着けて楽しむ人もいたが、16mmムービーの画角サイズ(スタンダード16:10.26x7.5㎜、スーパー16:12.5x7.4㎜)はMFTの約60%なので、広角側のレンズなどはケラレる可能性が多かった。しかし、BMCCのサイズはMFTに比べるとさらに10%ほど小さいので、ケリの可能性はその分減るはずだし、仮にケリが出たとしても、2.5K RAWやProResHQの解像度で撮れば多少の拡大クロップもOKと考えれば、試してみる価値は充分あると思うがどうだろうか。
ニコンが最近出したNikon1のセンサーサイズもBMCCとかなり近く(13.2x8.8㎜)、そんな状況もあって、Cマウント系レンズが注目されつつあるのだが、これを機に各メーカーから、Cマウントに限らずBMCCなどのサイズに合う小型軽量で明るく、しかも安いマニュアル系のレンズをもっと出してもらえたらと思う。
昔ながらの16mmフィルム撮影のスタイルを楽しみたいという人だったらMFTタイプがお奨めのカメラだろう。
Blackmagic Design Cinema Camera (BMCC) Test
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開発に携わった人の話によると、BMCCを作るにあたり、5DmkⅡやGH2などのデジタル一眼ムービーカメラに満足できないユーザーをターゲットとし、ダイナミックレンジと解像度を優先させ、あとはひたすら価格の安さにこだわったらしい。結果として、内蔵NDフィルターも交換バッテリーもないシンプルな造りになり、センサーサイズもスーパー35mmではなくスーパー16mmに近い小さいサイズに収まったというわけだ。
F値の表示(EFタイプ)やSSDメディアの残量表示やファイル削除などは、今後のファームアップで改善されるのではないだろうか。バッテリーの問題など使っていて不満に感じるところも当然出てくるだろうが、そこは各ユーザーの必要性や好みに合わせて周辺アクセサリーを揃えていけばいいだろう(カメラ本体がその分安いのだから)。
今現在はRAW収録の必要がない人や、興味はあっても編集する体制などが整っていない人でも、充分活用できるカメラだ。自分の場合、RAWだとデータ量が大きすぎて扱うのが大変だった(正直、ウチの古いバージョンのMacでは、撮影したRAW素材がDaVinci Resolveでも見れなかった)ので、しばらくはProResモードでの撮影だけで充分という気がした(それでも、422HQ高画質でのLog収録という恩恵にあずかれるわけだし)。いずれにせよ、このカメラの登場でRAW/LOG収録という形に象徴されるデジタルシネマの世界が、個人ユーザーにとってもかなり身近なものになってきたのは確かだろう。