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Sony NEX-FS700J レポート

NEX-FS700Jの一年前に発売されたFS100Jは、大判センサーならではの高感度・低ノイズがウリの高性能カメラではあるが、機能面・操作性などでいくつかの課題を残していた。FS700はそれらの課題をかなりクリアーしただけでなく、100万円以下クラスの業務用としては初めてとなるフルHD画質での最大10倍のハイスピード機能も搭載して、さらに進化したカメラとして登場した。その上、2013年春以降からは外部収録による4K RAW記録にも対応するようになるという。現時点において、同クラスでこれに対抗しうる機能を持つカメラはまだ出てきていないと言える。

FS700の操作性

FS700ではNDフィルター(¼,1/16, 1/64)が内蔵され、別途用意したNDフィルターをいちいち取付けたりする必要がなくなり、大判センサーによる浅い被写界深度を活かした撮影がより簡単で効率的に行えるようになった。HDMI出力以外に3G対応のHD-SDI出力が付いたのも大きな改良点の一つだ。そこから出力される映像信号についてはあとで述べるが、SDI出力端子が付いたことは現場での撮影環境の向上にかなり役立っている。少しの接触や振動でも断線してしまうHDMI端子しか選べなかったFS100では、外付けのモニターを使用する場合、HDMI-SDIコンバーターを使わなければならなかったりしたが、それでもモニターへの映像信号は結構不安定でよく途切れたりするので、現場での非効率性やストレスなどの大きな要因となっていた。

FS100でも指摘されていた、ハイアングル撮影などでに見づらくなる本体上面に付いたLCDモニターの改良はなかったものの、内蔵NDフィルターやHD-SDI出力が追加されたお蔭で、カメラまわりの操作性はかなり向上したといえる。

レンズ選び

FS700/FS100に採用されているEマウントはフランジバックが僅か18mmととても短い。その利点を活かし、マウントアダプターを使えば、Eマウント系以外にも様々なマウントタイプからレンズを選択できるというのもFS700の特長の一つである。ここでは使用できるレンズのほんの一例を紹介しよう。

ニコンのFマウント系レンズの多くは絞り環付きなので、アダプターさえあれば他のマウント系カメラで使ってもマニュアルによる絞り操作が可能だ。マウントアダプターも比較的安価で入手でき、早い段階からFS100などでもニコンのレンズは使われた。自分もTVドラマや自主映画で、FS100やFS700にニコンのAiレンズやツァイスのニコンマウント(ZF)のスチルレンズをよく使うが、明るくてシャープなレンズが比較的安く揃えられるので重宝している。但し、AFや手ブレ補正機能は使えない。

キャノンのEFレンズは完全電子制御なので、電子接点のないアダプターだとレンズを絞り開放状態で使うしかなかったが、最近メタボーンズから出たマウントアダプターは電子チップが内蔵されていて、カメラ側からレンズの絞りを制御できるようになった。AF機能に関してはFSシリーズでは非対応のようだが、手ブレ補正機能には対応するので、これでレンズの選択幅はかなり増えたと言える。

ソニーのAマウント系レンズには、αシリーズ用のツァイスなど高性能レンズを含む豊富なレンズ群があり、ソニー純正のマウントアダプター(LA-EA1、LA-EA2)を介せば、開放F値が通し2.8の明るいズームレンズなどの使用が可能になる。LA-EA2をFS100/FS700に使う場合は絞り制御とAF機能が使える。但し、AF使用時は絞りはF3.5に固定(開放値がF3.5より大きいレンズは開放値に固定)される。LA-EA1だと絞り制御のみが有効となる。ちなみに、NEXシリーズ(小型一眼タイプも含む)カメラにAマウントレンズを使う場合、手ブレ補正機能は使えない(αAタイプカメラのボディ内手ブレ補正方式に対し、αEタイプはレンズ側の光学式手ブレ補正を採用しているため)。

FS700が採用しているEマウント系のレンズは、他に比べ比較的小型軽量で、絞りやAF、手ブレ補正などがカメラ側から制御できるので便利だ。しかし、このタイプのレンズはフォーカスリングに距離の基線がなかったり、リングを回す速さの違いでピントの送り幅が変わってしまったりするので、動画撮影で芝居などをじっくり撮りたいという人には操作の面で不便さを感じるかもしれない。そんな場合はツァイスのコンパクトプライムなどEマウント系シネレンズという選択もあるが、値段はかなり高くなる。最近になって、EマウントはAPS-Cだけでなく35mmフルサイズをもカバーしていたことが判明し、Eマウント系レンズの世界はこれからまだまだ広がりそうであるが、現在のところ、他メーカーではタムロンやシグマなどから少しずつ出され始めたくらいで、まだとても充分なラインアップとは言えないのが現状である。

FS100との画質比較

Sony NEX-FS100 vs FS700 : ISO & S/N Test

FS700のセンサーは総画素数が1160万画素(4352x2662)あり、4Kサイズの動画撮影に対応している。現行での動画有効画素数がフルHDの4倍にあたる830万画素あり、これが高速読み出し、高速処理を可能にしてフルHD画質でのハイスピード撮影を可能にしているわけだ。PMW-F3と同じ高感度センサーを採用していたFS100の動画有効画素数は337万画素(総画素数353万画素)で、FS700は画素数がその約2.5倍に増えたわけだが、その代わり、1個あたりの画素面積(ピッチ)は僅かながら小さくなっている。ちなみに、画角(センサーサイズ)に関しては、FS100は35mmフルサイズの1.6倍相当に対し、FS700の方は1.7倍となり若干画角は狭くなっている。その辺の違いはカタログのスペックなどには示されてないが、実際に感度や画質に違いがあるのかどうか簡単な比較テストをしてみた。(今回のテストでは被写体のサイズが同じになるように調整したので画角の違いは判らない)

<FS100@ISO800>

<FS100@ISO6400>

<FS700@ISO800>

<FS700@ISO6400>

結果としては、同じISO感度設定だとFS100の方が、若干ではあるが明るく発色よく撮れる傾向にあった。FS700の方はややアンダーめになって、その分ハイライトが少し抑えられて白飛びしにくく、黒はより締まって硬めの印象を受ける。ディテール描写はFS700の方が若干ソフトになっているように見える。撮像素子の違いからくる解像度やエイリアシング(ピクセルのギザギザ)をFS100に似せると同時に改良もしているという感じだ。この辺は、あくまでもカメラの基本設定によるもので、ブラックレベルやガンマ、ディテールなどのパラメーター調整でかなり変更が効く範疇なので、どちらがいい悪いというのは一概には言えず、あとはユーザーの好みによると言えるだろう。

高感度時のカメラノイズに関しては、撮影条件にもよるが、例えば夜のシーンなどはISO6400くらいまで上げてもノイズは余り気にならない感じだった。感度を上げた時のノイズは、FS100/FS700間での黒レベルなどが若干違う分、見え方に多少の差はあるものの今回のテストではそれほどの違いは認められなかった。

ダイナミックレンジ

スタンダードの設定をそのまま使って撮影すると、IRE0%から100%で収まる範囲は約8ストップ分しかないが、ピクチャープロファイル(PP)で設定を変えてやれば、ダイナミックレンジをもっと増やすことができる。

ダイナミックレンジ広め(例;Black Level: +1、Gamma: Cine4、Black Gamma: Low/+7、Knee: 105%/+5)

スタンダード設定では白飛びしていた服や顔のハイライト部分も、ガンマやニーの設定を調整することで、ディテールを失わずにほぼ100%以内に収めることができる。暗部に関しても同様で、波形では一見黒潰れしているような黒の部分でも情報が結構残っていて、グレーディングで暗部を持ち上げてみると、わずかな黒の差もきちんと再現されてノイズもほとんど感じられなかった。この設定ではダイナミックレンジを約2ストップ分増やすことができたと言える。

PPのパラメーター設定を工夫することによって、FS700の性能をより引き出す事が可能になる。今回のテスト用のPP設定もスタンダード設定と同様、単なる1パターンに過ぎない。自分も今回のテストのため参考にさせてもらったのだが、海外サイトなどを見ると、海外のFS100/700ユーザーたちがオリジナルのPP設定を作って紹介しているので、それらを参考にして撮影条件や好みのルックに合った自分のオリジナル設定を作ってみるのもいいだろう。グレーディングで狙いのコントラストや色味にもっていくのも一つの方法だが、撮影時に狙いのルックを作ることができるところもFS100/700を使う利点であり、また楽しみの一つと言えるので、その特長を大いに活用してみてはどうだろうか。

FS700 & BMCC Dynamic Range Test

スーパースローモーション撮影

ここからは、FS700の最大の特長の一つ、スーパースローモーション撮影について説明しよう。カメラにはノーマル撮影、スロー&クイック撮影、スーパースローモーション撮影と3つの撮影モードがあり、切替えはカメラ横にあるS&Qボタンを押して行う。60i設定を選択した場合、選べるフレームレートは120/240/480/960fpsの4つだが、フルHD画質なのは120fpsか240fpsで、480fps、960fpsでは事実上SD画質の解像度となる。撮影可能な時間にも制限がある(120fpsで16秒、240fpsで8秒、480fpsで9秒、960fpsで19秒)ので状況による使い分けが必要になる。<SSM図1new参照>

フルHD画質の120fps(5倍スロー*1)だと撮影可能時間が16秒間。その倍の240fps(10倍スロー)だと画質はフルHDのままだが、撮影可能時間が半分の8秒間に減る。どちらも収録後の素材尺は最大80秒*2。さらにその倍の480fps(20倍スロー)になると撮影時間は9秒間と240fpsより若干増えるが、解像度がSD画質並み(1920 x 432)に落ちる。960fpsだと40倍の超スロー映像が得られるが、画質はさらに落ち(1920 x 216)画角も200%に拡大される。これに、50i選択時の100/200/400/800fpsも加えた8つのフレームレートの中から、スロー速度、撮影時間、画質の3つの撮影条件を考えて設定を選ぶことになる。<SSM図2new参照>

*1)24pモードの場合。今回は60iの1080/24pを主な設定モードとして撮影した。特に注釈がなければ1080/24pの場合とする

*2)FCPで素材を取り込んでみたところ、1クリップの長さは1分19秒で、その内、最後の20フレはフリーズだったので、厳密に言うと、78秒10フレ尺のHS素材を記録した

操作方法:3つのトリガーモード

スーパースロー撮影の具体的な操作方法に移ろう。録画フォーマットやフレームレートを設定する際、録画スタートのタイミング(REC TIMING)の方法も選ぶことができる。録画ボタンを押した直後から映像を記録するスタートトリガー、録画ボタンを押した時点から時間を遡って映像を記録するエンドトリガー、そして、遡る時間が半分のエンドトリガーハーフの3つの方法があり、各トリガー設定とフレームレートによる撮影時間の関係は図表に示したので参考にして欲しい。<SSM図3new参照>

スタートトリガーで撮影する場合、録画ボタンを押すと映像が240fpsで8秒間(又は120fpsで16秒間、あるいは、再度録画ボタンを押すまで)撮影され(画面には『取り込み中』”Buffering”と表示)、この間、映像はカメラ内のキャッシュメモリーに一時保存される。次に画面が『録画中』”Recording”の表示へと変わり、SDカードやフラッシュメモリーなどの記録メディアへのデータ収録が行われる*3。

*3)スーパースロー撮影では、スロー&クイック撮影と同様、メモリーカードとフラッシュメモリーユニットへの同時記録は不可

エンドトリガーはソニーのXDCAMなどにあるキャッシュREC機能をスローモーション撮影に応用したもので、この設定にしてスーパースローモードにすると、すぐにキャッシュメモリーへの取り込みが開始される(画面が『準備中』から『STBY』スタンバイ状態に変わる)。被写体にカメラを向けておき、撮りたい事象が起こったところで録画ボタンを押せば、その時点から8秒(又は16秒)遡って映像を記録してくれる(『録画中』と表示)。エンドトリガーハーフは遡る時間が4秒(又は8秒)となる。

『録画中』(メディアへの記録中)の画面には、撮影された映像が4倍(又は2倍)スローの60p映像の状態で再生される。10倍(又は5倍)のスロー映像よりは少し速めだが、撮ったばかりのスロー映像を確認することができるわけだ。しかし、120、240fps撮影時で最大32秒、960fpsになると最大で5分以上も記録に時間を要し、その間、撮影はストップすることになってしまう。もし『録画中』映像を見ながら、そのテイクは失敗、あるいは、そこから先の映像は不要と判断した場合、その時点で画面上の『キャンセル』ボタン(又は、カメラ本体のEXECUTEボタン)を押せば直ぐに記録の中止をすることができる*5。もし『録画中』に絶好の撮影チャンスが訪れた場合、記録中のデータをあきらめれば、すぐにまた8秒(又は16秒)の撮影を始めることができるわけだ。

*5)記録中のデータはキャンセルボタンを押す直前までの部分は保存されていた

いくつかの課題

トリガーモード設定の手順なのだが、MENUボタンを2回押して(1回めはスーパースローモードの解除)メニュー画面に行き、設定を変え、S&Qボタンを押してスーパースローモードに戻し…と結構煩わしかった。それはISO感度設定の変更の際にも言えて、そうしている内に撮影チャンスを逃してしまうということが何度かあった。この2つの設定*6が、スーパースローモードを解除せずに行えたらもっと操作が楽になると思った。普通の撮影ならこれほど気にしないのかもしれないが、ハイスピード撮影の時は一瞬の撮影チャンスを逃すまいと焦る状況下に陥りやすく、こうしたちょっとした工夫が撮影中のストレスをかなり減らしてくれると思うので、今後の改良で是非お願いしたい。

*6)絞り・シャッター速度の変更、120/240fps切替えなどはスーパースローモードのまま可能

フリッカー問題

スーパースロー撮影の時、シャッター速度はフレームレートより低速の値(120fpsなら1/125、240fpsなら1/250よりスローの値)は選べない。当然、スーパースローの時はノーマル撮影時よりも光量が必要になるが、そこは持ち前の高感度・低ノイズの性能である程度カバーできるとしても、もう一つ残るのがフリッカーの問題である。夜の街中や蛍光灯下の室内でスーパースロー撮影する場合、上記のシャッター速度の理由からどうしてもフリッカーが(当然ながら明滅もスローになって余計に)目立ってしまうのだ。せめて120fpsの時だけでもss1/100まで下げられるといいのだが。スローシャッター機能との組み合わせでどうにか上手くいかないものだろうか?

外部出力映像

 先ほど述べた『録画中』(メディアに記録される時)に4倍(又は2倍)スローで再生される60p映像だが、これもかなり注目に値する部分ではないかと思う。SDカードやフラッシュメモリーなど記録メディアに収録された後のハイスピードの映像は、HD画質でもAVCHD状態となってしまうが、この4倍スローの60p映像はまだ非圧縮10bit/4:2:2信号*7のままである。そこで、ブラックマジックデザインのUltra Studio 3Dなど1080/60pの非圧縮10bit/4:2:2に対応したキャプチャデバイスを使えば、非圧縮状態の60p映像を4倍スロー状態で記録でき、結果として、240fpsの映像をProRes 422HQなどの高画質でも得られるということになる。これも他の同クラスのカメラにはない性能であり、充分活用すべきではないだろうか。

*7)カメラ内部でのY:Pb:Prの量子化bit数は8bit

最近、ソニーは4K RAW記録に対応した外部収録システム(RAWレコーダー"AXS-R5"、インターフェースユニット"HXR-IFR5")の開発を発表。2013年春以降には、FS700の対応ファームアップの提供開始を予定している。4K記録に対応するようになった場合、外部出力されるハイスピード映像の状態がどうなるのかも気になるところだ。

Sony NEX-FS700 Super Slow Motion Sample Video

Sony NEX-FS700 Super Slow Motion Sample Movie

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