コンパクトシネズーム(Lightweight Zoom)
<4K&デジタルシネマ映像制作に寄稿②>
ここ数年、仕事でデジタルシネマカメラを使う機会が非常に多くなってきた。それまで仕事で使うカメラと言えば、センサーが2/3型のENGタイプや1/3型のハンドヘルドタイプのカメラなどが多く、レンズも一体型か交換式の標準ズームのみで、余裕があればショートズームかワイコンが付く程度という場合ばかりで、単焦点レンズ(単玉)のセットなどは滅多に使えなかった。自分の場合、予算的・時間的にあまり余裕のない作品が多かったということもあり、現場でのスピード・機動性を重視してズームレンズを使ったわけだが、単玉、ズームとも使えるレンズのチョイスが今ほど無かったというのも理由の一つだ。最近は、デジタルシネマカメラの普及に合わせ市場に出回る交換式レンズやマウントでダプターの種類も増え、レンズの選択枠がかなり広がってきたお蔭で、以前は使う機会の少なかった単玉セットなども色々と使えるようになったのは嬉しいことだ。しかし、今度はその逆に、デジタルシネマカメラ用のズームレンズに何を使ったらいいか頭を悩ましている人が、自分以外でも結構いるのではないだろうか。
動画撮影に用いるズームレンズは単玉レンズを選ぶのより難しい。ズームレンズは一本で単玉数本分の焦点距離をカバーできるので、レンズ交換の手間も省け現場の進行が速くなる上、ショットの中でサイズを変えるズーム撮影もできたりと、あれば何かと便利なツールだ。それゆえ、フォーカスや絞り操作以外にも滑らかなズーム操作が要求されるため、単玉でよく行うような、スチル用レンズにギアリングを付けただけの“にわかシネレンズ”では現場で色々と使いづらい場合が多い。スチル用ズームにはAFや手ブレ補正など動画撮影にも有効な機能もあるが、カメラによっては使えないことも多い。やはり、動画撮影ではフォーカス、絞り、ズームともにマニュアルで操作できることが基本条件だろう。テクニカルファームやDuclosレンズがスチル用ズームをシネマ仕様に改造したタイプもあるが、まだまだ種類が少ないのが現状だ。
操作性から考えると、映画撮影用レンズ(シネレンズ)か放送用・報道用のENGレンズというのが思い当たるところだろう。スーパー16用ズームや2/3型B4マウントレンズは比較的小型で軽いわりにズーム比が10~20倍以上もあり、フォーカスやズームの操作もやり易く、その上、B4マウントENGタイプなら電動ズーム機能まで使えて便利だ。しかし、スーパー16用レンズはRED 2K収録などセンサーサイズが小さい場合なら有効だが、スーパー35などの大判センサーとなると当然ケリが発生するので使えない。B4レンズの方は変換アダプターを用いれば大判センサーでも使えるが、光量が2~2.5絞り分ほど犠牲になる上、多少の画質の劣化も否めない。操作性に加え画質面も考えると、やはり35mm用のシネズームということになるが、問題はその大きさ・重さだ。昔からあるCookeなどの35mm用ズームは大きく重いものばかりで現場での取り回しが大変になる。手持ち撮影などしようものなら一大事だ。
嬉しいことに、昨今のデジタルシネマカメラの小型化に合わせ、ズームレンズの方も小型軽量タイプが増えてきている(チャート参照)。コンパクトシネズーム(Lightweight Zoom)と呼ばれるこれらのズームは、ほとんどが長さ25cm以内、重さも3kg以内で、この程度のサイズでPLマウントなら(撮影状況やマウントの材質も関係するが)ロッドサポートなしでカメラに装着することができる*。カメラと合わせて5-6kg以内なら手持ち撮影で使用しても、それほど苦労ではないだろう。ほとんどのレンズがRED EPICやSCARLETの5Kモードのセンサーサイズ(対角線長31.4mm)にも対応している。欠点を言えば、開放値が若干だが暗くなるのとズーム比が小さいこと、あとは値段だろうか。シネマ仕様に改造したタイプなら比較的安く個人購入も可能かもしれないが、それ以外のシネズームは200万円以上するので、低予算作品にはレンタルして使うのが無難そうだ。2014年にはコンパクトサイズのアナモフィックズームレンズ(Angenieux Optimo 56-152 2S T4.0)も登場する。今後益々、コンパクトシネズームは盛り上がりを見せて行きそうで、小型軽量で高性能なズームレンズの更なる登場に期待したい。(*マウントアダプターを併用する場合を除く)
① Fujinon ZKレンズシリーズ
フジノンZKシリーズはスーパー35サイズ対応、PLマウント式の高性能シネマ用ズームレンズ。フジノンには元々HKシリーズという35mmPL用のシネズームがあるが、それをさらに小型軽量化し、長さ25cm以下、重さ3kg以下というコンパクトなサイズで、T2.9の明るさと高いズーム比を実現するのに成功した。新たに14-35mmの広角ズーム(ZK2.5x14)が加わり、3本セットで14mmから300mmまでの広範囲をカバーできる。
ZKシリーズの最大の特長は、ズームやフォーカスを制御できる脱着可能な電動ドライブユニットで、オートズーム操作などがB4マウントズームを使うような感覚で行える。テレビ放送やドキュメンタリー制作のようなENGスタイルでの撮影をしながら、スーパー35サイズによる映画のようなボケ味を活かした映像表現が味わえる。従来通り、既存のズームコントローラーやフォーカスデマンドを用いて有線・無線両方でのリモート制御もできる。また、このレンズにはENGレンズと同等のバックフォーカス調節機構が付いている。インフが来ない、引きボケするなど、フランジバックの微妙なズレから起こる問題を修正できるほか、その機能を利用してマクロ撮影もできたりと、長年フジノンが培ってきた放送用レンズ開発のノウハウが随所に活かされている。
もちろん、電動ドライブユニットを取り外して、ズームやフォーカスをマニュアル操作する従来通りの映画スタイルでの撮影もできる。ズーム比は従来のENG用ズームなどと比べればさすがに小さいが、他のコンパクトズームのほとんどが比率3倍以下なのに対し、ZK4.7x19(19-90mm)は4.7倍、ZK3.5x85(85-300mm)は3.5倍と小型サイズながらかなり健闘している。大型シネズームより僅かに暗くなるが開放値は通しT2.9(コンパクトズームでは平均値)の明るさで、ZK4.7x19はセットレンズ4本分をカバーする。普通のシーンならこれ1本でも十分撮れてしまう。ZK3.5x85の方は、218mm以上から僅かにFドロップが見られ300mmではT4になるが、コンパクトズームで望遠300mmまであるのはこのレンズだけだ。
フォーカスやズームの操作角(回転角)は狭過ぎず広過ぎずといったところ(フォーカス200°/ズーム120°)。オートとマニュアルのどちらの操作にも対応させる為なのだろう、フォーカス、ズームリングを手動で回した感じは少し軽めで、もう少し粘りが欲しい気もした。あと強いて言えば、ZK4.7x19でのバックフォーカス調整が追い込みづらかったのと、同レンズで若干のブリージング(フォーカス操作時の画角変動)が気になった点だろうか。
肝心の画質の面だが、どのレンズもズーム全域で開放付近からかなりシャープだ。ツァイスのウルトラプライムと組み合わせての撮影だったが、ツァイスとの色味やコントラストの微妙な違いはあるものの、どのショットがどのレンズで撮ったのか分からないほどで、4K撮影でも全く問題ない高いクオリティだ。
『赤xピンク』という映画の撮影では、手持ちの撮影が多くカメラ全体を極力軽くしたいのと同時に、アクションシーンなどで素早いサイズ変更も必要だった。これまでは、RED 2K収録での撮影が多く、使用するレンズもENG(B4)用や16mm用レンズなど比較的軽いレンズを使用していた。それと全く同じとは言えないが、ZKシリーズは、それに近い感覚での撮影ができてとても助かった。現場でドライブユニットは常に外していたが、レンズの重さは2.5kg以下と、ロッドサポート式の大型シネズームの約1/3~1/2と軽く、毎日カメラを担ぎっぱなし*の現場だったが腰を痛めることもなく最後まで無事に撮りきることができた。(*EasyRigというカメラサポートも使用)
② Tokina 16-28 T3.0 シネマレンズ
対応センサーサイズ:スーパー35
マウント:PL、EF
焦点距離 :16~28mm
ズーム比:1.75倍
絞り値:T3.0-T22(F2.8-F22)
レンズ構成:13群15枚
最短撮影距離 (MOD):0.28m
マクロ最大倍率:1:5.26
絞り羽根枚数:9枚
フィルター径 :112mm
最大径x長さ:φ123x144mm
重量 :1.5kg
一眼レフ用交換レンズの老舗メーカーのトキナーが出した自社初となるシネマレンズ。トキナーレンズのシネレンズ仕様と言えば、Duclosレンズ社がAT-X 116 PRO DXを改造したDuclos 11-16mm T2.8というのがあるが、今回のレンズはそちらではなく、AT-X 16-28 F2.8 PRO FXを動画撮影用に作り替えたもの。光学系部分こそAT-X 16-28をそのまま使用しているが、ピッチ0.8のギアリングの付いたハウジングは全く新しく作り替えられていて、大きさ・重さ共にいかにもシネマレンズといった風貌だ。マウントはPLとキャノンEFの2タイプある。
フォーカスリングの回転角は約100°とシネレンズとしてはさほど大きくはないが、リングを廻した感じは程良く粘りがあってピン送りがしやすい。絞り環は無段階調節ができるようになっていて、オートアイリスやAF機能のない完全マニュアル式。前玉がかなり突出しているので、スチルレンズ版では直接フィルターが付けられなかったが、シネレンズ版の方は112mm径のフィルターが付けられるようになっている。
絞り値がT値表示になっているが、画質の面ではスチルレンズと変わらない。歪曲はワイド側で僅かに感じる程度で、20mm付近では全く問題ない。ワイド側での解像力は、レンズ中央部では開放からとてもシャープで、若干甘めの周辺部もT4まで絞ればかなり改善され、テレ側もT5.6まで絞れば周辺部までかなりシャープになる。ワイド側で見られる周辺減光も一絞り絞ればほぼ解消される。スーパー35のセンサーサイズ用なのでT4まで開けても問題はないだろう。
価格は約58万円(税別)とスチルレンズ版の約5倍となっているが、このクラスのシネレンズとしてはかなりコストパフォーマンスが高いと言えるのではないだろうか。似たような広角系だと、ニコンの14-24mm F2.8を改造したRuby14-24mm T2.8というシネズームがあるが値段はトキナーの倍以上だ。
③ Rokinon(Samyang)シネレンズ
これはズームレンズではなく単焦点のみだが、低予算ユーザーのためのシネレンズということで紹介したい。単焦点シネレンズだと、ツァイスのコンパクトプライム CP.2などがよく知られるところだが、低予算の自主制作でそこまで予算的に難しいという人には、ツァイス SLRレンズ(光学系的にはCP.2と同じ)やニコンなどのマニュアル絞りタイプのスチル用レンズをシネマ仕様にして使う方法もある。これらのセットは機材屋でレンタルできるし、個人で購入し揃えている人も少なくない。それすらも予算的に厳しいという残念な人にはRokinonレンズがある。
Rokinon(ロキノン)は日本ではまだ余り知られていないが、韓国のレンズメーカーSamyang(サムヤン)の北米・欧州向けのブランド名。元々は監視カメラ用レンズのメーカーだったが、数年前からDSLR交換レンズも手掛けるようになった。ロキノン(サムヤン)レンズはツァイスSLRレンズにも引けを取らない高性能と評価されるにもかかわらず、値段はツァイスの1/4以下という価格破壊的な代物。シネマ仕様のタイプもあり『ZOMBIE TV』という作品では、24・35・85mmのシネレンズ3本を使用した。スチルレンズの光学系部分はそのままに、ピッチ0.8のギアリングを付け、無段階調節にした絞り環をT値表示にした程度の改造だが、エンドストップ付きのフォーカスリングは程良く粘りがあって回しやすく(回転角約150°)、プラスチック性のボディというのもさほど気にならない。基線はレンズの横側に付いていて、フォーカスプラーが操作しやすくなるよう工夫されている。
画質の方はどのレンズも開放付近から優秀で、少し絞れば周辺部までかなりシャープになる。フルサイズの場合、周辺光量落ちが開放付近で若干見られるようだが、少し絞り込めば解消されるし、スーパー35サイズのカメラで使用するなら全く問題ない。逆光ではフレアが出やすくコントラストがやや低下する。フォーカスを送る時のブリージングも若干感じるなどマイナス点もあるが、値段の安さを考えれば全く許せてしまう範疇だろう。
通常、シネレンズというとツァイス CP.2などのように値段がスチルレンズ版の4-5倍もするが、ロキノン(サムヤン)のシネレンズはスチル版と比べ2万円程度しか値段が違わないという驚きの低価格で、ツァイスのシネレンズ4本セット1週間のレンタル料金でロキノンのシネレンズ2-3本が買えてしまうという、個人でも十分に手が届く値段だ。ほかにシネレンズ仕様だと、8mmT3.8、14mmT3.1、16mmT2.2などがある。50mmや100mmがまだ無いのが残念だが、噂では50mm F1.2を現在開発中(2014年に発売予定)らしい。シネレンズも含め、日本ではケンコー・トキナーのオンラインショップや他のネット通販から購入可能。