SLR Magic シネレンズ
<ビデオSALON 2014年5月号に寄稿>
香港のレンズメーカーSLR Magic社が発売した12、17、25、35mmのマイクロフォーサーズ(MFT)用シネレンズ4本セット。AF、絞り制御、手ブレ補正などは効かない完全マニュアル式。MFT用マニュアル式レンズと言えば、コシナ Nokton 17.5、25、42.5mmのF0.95シリーズという優秀なレンズがあるが、SLR Magicのレンズはその対抗馬となりうるのか検証してみた。
12mm T1.6 Hyperprime CINE
MFT系レンズだとオリンパスのM.ZUIKO DIGITAL ED 12mm F2.0があるが、それより2/3絞り分明るいT1.6。MFT系の魚眼以外では最も広角で最も明るいレンズと言える。小さくて軽いオリンパスの12mm F2.0とは対照的に大きくて重いが、その分、手動でのフォーカス操作などはやりやすい。画面中央部の描写は、開放からT2.0辺りまではややソフトでコントラストも低いが、T2.8まで絞ればかなり解消される。開放付近の周辺部においては収差によるパープルフリンジ(紫色のにじみ)も見られるが、これもT2.8以上に絞れば改善されてくる。T4からT8の間で使えば画面全域においてかなりシャープになる。周辺光量落ちは開放付近の四隅で目立つがT2.8以上に絞ればかなり解消される。絞りをT4からT11まで(絞り3段分)絞っても、実際には2と1/3絞り分しか暗くならない。
17mm T1.6 CINE
Nokton 17.5mm F0.95より開放値が1絞り半ほど暗いT1.6。サイズはNoktonより若干小振りで軽い。画面の中央・周辺部とも開放付近ではソフトでコントラストも低く色収差も見られる。中央部はT2.0辺りから解消され始め、T2.8まで絞るとかなり改善される。周辺部はT4.0くらいまで絞ればかなり解消され、T5.6でかなりシャープになる。四隅はT8.0まで絞らないと解消されない。今回テストしたレンズだけかもしれないが若干方ボケが見られ、右側の周辺部分が流れてしまっていた。周辺光量落ちは開放からT2.8までが著しく、それ以上絞ればかなり改善されるが、T16まで絞っても完全には解消されない。他の3本と比べ、17mmだけ色味がやや赤みがかっている。このレンズも絞りをT5.6からT16(3絞り分)絞っても2と1/3絞り分しか変わらない。
25mm T0.95 Hyperprime CINE
Nokton 25mm F0.95と同じ焦点距離と絞り値を持つレンズ。スペック値だけでなく、画質面でもNoktonに負けないくらい安定している。フレア防止用にレンズフードが付いている。中央部はさすがに開放では若干ソフトだが、T1.4まで絞ると解消されはじめ、T2.0まで絞ればかなりシャープになってくる。周辺部はT2.0まで絞ればかなり改善されT2.8でとてもシャープになってくる。開放付近での周辺光量落ちが若干見られるが、T2.0まで絞ればほぼ解消される。イメージサークルはAPS-Cサイズを十分カバーしている*ので、MFTサイズで使う分には最周辺部などの光学的に弱い部分を余り気にする必要がない。最周辺部の画質がさほど重要でなければ、絞りT2.8辺りで使っても十分良いが、ベストの解像度が欲しいならT5.6付近で使うべき。開放T0.95からT1.4までの間の光量の差が2/3ストップ分しかない。
*マウントアダプターを使用してAPS-Cサイズのカメラに付けてみたところ、ケラレは出なかった。
35mm T1.4 CINE Ⅱ
25mm T0.95 Hyperprime CINEと同様、安定した画質の優秀なレンズ。このレンズだけ絞り羽根が前玉側に付いている。開放付近では中央・周辺部ともに若干ソフトだが、一つ絞ればかなり解消され、T2.8まで絞ればかなりシャープになる。色収差は周辺部でもほとんど気にならない。周辺光量落ちは若干感じる程度だが、これは絞り込んでもあまり変わらない。このレンズもAPS-Cサイズを十分カバーするイメージサークルを持つので、MFT系カメラで使うなら周辺部分や四隅の画質劣化をあまり気にしないで済む。
<総評>
金属製のボディはズッシリと重く、回転角が比較的広めのフォーカスリングは程良く粘りがあって回しやすい。絞り環はシネレンズには必需のクリックレス(無段階調節)式だが、絞り値(T表示)の間隔は一定ではなく、数値が大きくなるにつれ配列の間隔が狭くなり(T8の次はT16だったり)正確な絞りの位置を決めるのが困難。また、絞り値を同じ場所に置いても明るさが微妙に違うことがあった。使い込まれた古いレンズなどは絞り羽根の開き具合が安定せずズレやすいので、必ず一度開放にしてから絞り込むと良いのだが、このレンズもそれと同じように扱った方が良い。各レンズの色味など性格も微妙に違うので、セットレンズとしてあまり考えない方がいいかもしれないが、25mmと35mmの2本は優秀なレンズと言える。動画撮影用のマニュアルレンズが必要だが、Noktonだと高価すぎて手が出ないという人にはお奨めかも。